「運動学って、結局なんの科目なんだろう」——そう思ったまま、手が止まっている人は多いと思います。
僕は養成校で8年、運動学を教えています。 学生に最初に伝えているのは、運動学は国家試験で点が取りやすい科目だということです。範囲が広く見えるわりに、実際に問われるテーマがほぼ決まっていて、年によって大きくブレないからです。だから、勉強した分がそのまま点になりやすい。そして同時に、臨床に出てからもとても重要な科目でもあります。この記事では、運動学のどこを勉強すればいいのか、どう覚えると楽なのかを具体的にお伝えします。
この記事で一番伝えたいこと:運動学は、覚えるべきポイントが決まっている科目です。
だから、やれば取れる。裏を返せば、やらないと落とす科目でもあります。どこをやればいいのかを、この記事で先に決めてしまいましょう。
そもそも:運動学とはどんな科目か
ざっくり言うと、筋肉と関節の動き、反射、運動発達、歩行を学ぶ科目です。
解剖学との違い・つながり
解剖学は「構造」だけを扱います。それに対して運動学は、そこに運動器の生理学と、力学(てこ・モーメント)が加わったイメージだと考えてください。
骨や筋がどこにあるかを学ぶのが解剖学、その構造がどう動くのかを学ぶのが運動学。つまり運動学は、解剖学の続きです。
要するに:解剖学=構造/運動学=その構造がどう動くか。
だから運動学は、解剖学と切り離さず、セットで勉強してほしい科目です。

運動学でつまずく理由
いちばん多いのは、「勉強すべきところが分かっていない」というパターンです。
運動学は範囲が広く見えますが、実際に問われるところは決まっています。そこを知らないまま全部を均等にやろうとすると、量に押しつぶされて苦手意識だけが残ります。
まず押さえるべきは、この5つです。
① 関節の動き(=運動面と運動軸/筋の作用と関節運動) ② てこ ③ 反射 ④ 歩行 ⑤ 運動発達
この5つが運動学の得点の中心です。まずここから手をつけてください。
(「5つ以外は出ない」という意味ではありません。全部を均等にやって潰れないための、優先順位です。)
「動き」で理解する勉強法
運動学は、机の上だけで完結させないほうが早いです。テーマごとに、こういうやり方を勧めています。
| テーマ | やり方 |
|---|---|
| 筋肉 | 自分の体で触って+動いて確認する |
| 歩行 | 実際に歩きながら考える |
| 運動発達 | 語呂合わせを活用する |
とくに筋肉は、触って位置を確かめるのが結局いちばん速いです。文字で覚えようとするから終わらないのであって、自分の体という教材はいつでも手元にあります。
理由は2つあります。筋や関節は「位置と方向の情報」なので、文字にするより体で覚えたほうが早いこと。そして触って確かめる作業が、そのまま触診の練習になることです。国試の勉強と実技の練習を同じ時間でやれます。机の前に座らないと勉強できない科目ではありません。
頻出テーマと覚え方
さきほどの5つを、国試で問われる形にほどくと6項目になります。順番に見ていきます。
運動面と運動軸
運動面を難しく考えている人がとても多いところです。写真の撮り方で考えてください。

| 運動面 | どこから見た絵か | そこで起こる運動 |
|---|---|---|
| 矢状面 | 横から撮った写真 | 屈曲・伸展 |
| 前頭面(冠状面) | 正面から撮った写真 | 外転・内転 |
| 水平面 | 上から撮った写真 | 外旋・内旋 |
そしてその面に垂直になるのが軸です。教科書にも「運動軸は運動の面に対して常に直角である」と書かれています。僕がこの説明をすると、学生の理解が一気に進みます。
〔重要〕軸の“名前”は、面の名前とねじれます
面が決まれば軸は自動的に決まります。ただし名前は素直に対応しません。 矢状面の運動(屈曲・伸展)は水平前頭軸、前頭面の運動(外転・内転)は水平矢状軸、水平面の運動(外旋・内旋)は垂直軸。
「矢状面だから矢状軸」ではありません。矢状面には“前頭”が、前頭面には“矢状”が入る。 ここは毎年ひっかかる人がいるので、ねじれごと覚えてください。
※「前頭面」は教科書によって「前額面」「冠状面」とも書かれます。指しているものは同じです(運動学の教科書は本文で前頭面、巻末の関節可動域表示で前額面と使い分けています)。
てこの原理
そもそも、てこは支点・力点・荷重点の並び順で分類されます。真ん中にくるのが支点なら第1、荷重点なら第2、力点なら第3。順番だけの話です。
そのうえで——全部を覚えようとするからしんどくなります。僕は学生に、少数派だけ覚えて、残りは第3のてこ、と教えています。

| 種類 | 教科書が挙げている例 |
|---|---|
| 第1のてこ(安定性のてこ) | 頚部伸筋群による頭部のつり合い/中殿筋による片脚立ちでのつり合い |
| 第2のてこ(力のてこ) | 下腿三頭筋によるつま先立ち/腕橈骨筋による肘関節の屈曲 |
| 第3のてこ(運動のてこ) | 上記以外はすべてこれ(ハムストリングスによる膝関節の屈曲、上腕二頭筋による肘関節の屈曲 など) |
第1と第2に挙がるものを覚えて、残りは第3——これで大丈夫です。教科書にも「身体の筋収縮による関節運動の多くは第3のてこである」と書かれています。人体では第2のてこにあてはまる構造が、そもそも少ないからです。
〔重要〕2つだけ、条件を落とさないでください
中殿筋が第1のてこになるのは「片脚立ちのとき」です。「中殿筋=第1」と裸で覚えず、「片脚立ちの中殿筋」まで一つの塊にしてください。
そして教科書は、つま先立ちについて「状況によって各点の位置関係が変化し、てこの種類も変わることがある」と断っています。問題文が姿勢や条件を指定していたら、支点・力点・荷重点がどこにあるかを一度その場で考え直す。 そこだけ気をつけてください。
反射
難しく考えすぎている人が多いところです。そして「難しく感じる」理由には、はっきりした正体があります。
教科書を読むと、同じ膝蓋腱反射が何通りもの呼び方で出てきます。刺激で見れば伸張反射、受容器で見れば深部反射、シナプスの数で見れば単シナプス反射、中枢で見れば脊髄反射——全部おなじ一つの反射です。 別々の反射をいくつも覚えているつもりになっているだけ、というのが正体で、切り口が違うだけだと分かれば一気に軽くなります。
そのうえで、国試でいちばん出るのは伸張反射です。流れは一本道。筋が伸ばされる → 筋紡錘が興奮 → Ia群線維が脊髄へ → 介在ニューロンを挟まず直接α運動ニューロンへ → その筋が縮む。 挟まないから単シナプス反射。代表例は膝蓋腱反射とアキレス腱反射です。
歩行周期
文字で覚えようとすると、まず頭に入りません。歩きながら考えるのがベストです。
ただし、ただ歩くだけでは覚わりません。歩きながら、この2つを確認してみてください。
- いま右足のどこが地面についているか(踵がつく → 足裏全体 → 踵が浮く → つま先が離れる)
- 両足が同時に地面についている瞬間が、1周期に何回あるか
やってみると、両足が同時についている瞬間が1周期に2回あることが体感で分かります。用語は、あとから名前を貼るだけです。
数字も一応。立脚相が約60%、遊脚相が約40%。 そして速く歩くほど両足がついている時間は短くなり、走ればゼロになる——ここは問われます。
運動発達
苦手意識が先行しがちですが、1歳で歩行を基準に置いて、そこまでの流れをイメージできると整理できます。
教科書が示す順序は、こうです。
頭位保持 → 寝返り → 坐位保持 → はう → つかまり立ち → つかまり歩き → 独り立ち → 独り歩き

教科書は「時期には個人差があるが、順番にはあまり個人差がない」と書いています。独り歩きが2歳以降になる子もいる、とも。だから僕は、月齢を1つずつ暗記するより、順番を軸に置くほうが強いと考えています。そのうえに代表的な月齢を乗せると、崩れにくくなります。
月齢は、語呂で拾えるところだけ拾ってください。
| 語呂 | 何の時期か(教科書の目安) |
|---|---|
| ゴロゴロ(5・6) | 寝返りが完全にできる = 5〜7か月 ※「一部できる」は3〜4か月。教科書の表の値はこちら |
| ハイハイ(8い8い) | はう = 7〜8か月 |
| イチロー(1・6)の階段登り | 階段を昇りはじめる = 1歳6か月 ※はじめは四つばい。降りられるのは4〜5歳 |
| スキップゴロー(5・6) | スキップ = 5〜6歳 |
動作そのものが音に入っている語呂だけを使ってください。 ゴロゴロ=寝返り、ハイハイ=ハイハイ。動作と音がつながっていない語呂は、語呂を思い出す手間が増えるだけで逆効果です。
寝返りだけ注意を。「一部できる(3〜4か月)」と「完全にできる(5〜7か月)」の二段階があり、教科書の表は前者を載せています。語呂の5・6は「完全にできる」ほうです。
筋の作用と関節運動
作用まで丸暗記しようとするのが、いちばんの遠回りです。
起始・停止は、まずおおよその位置を身体で覚えてください(最終的には正確に覚える必要がありますが、入口はそれで十分です)。そのうえで、起始と停止がいちばん近づく動きが作用なので、動きに当たりをつけられます。
ただし、この予想が効かない場面もあります。回旋(上腕二頭筋の回外は近づき方から読めません)、二関節筋(大腿筋膜張筋は腸脛靱帯を介して膝にも作用します)、そしてどちらの端が動くかは、どこが固定されているかで変わること。当たりをつけたら、最後は教科書で確認してください。予想は入口であって、答えではありません。
支配神経は、同じ神経が支配している筋をグループで覚えると楽になります。とくに肩甲骨周囲と下肢は、グループ分けがしやすいところです。上肢なら正中神経・尺骨神経・橈骨神経の3本が頻出なので、この3本がそれぞれどの筋を担当しているかをまとめて押さえてください。
ただし、上肢を3本で終わらせないでください。 上腕の屈筋群(烏口腕筋・上腕二頭筋・上腕筋)は筋皮神経、三角筋は腋窩神経です。とくに筋皮神経は、教科書が「腕橈骨筋は、筋皮神経麻痺で上腕二頭筋と上腕筋が麻痺したとき、唯一残された肘関節の屈筋である」と書いていて、そのまま出題ポイントになります。
国試で狙われる引っかけ
最近の傾向として、筋肉の簡単なところより、支配神経や作用など、より細かく問われることが多くなっています。 「名前を知っている」レベルでは足りない、ということです。
たとえば、こういう形です。
- 筋の名前は分かるのに、支配神経を聞かれると答えられない(正中・尺骨・橈骨に加えて、筋皮・腋窩まで)
- 主作用は言えるのに、二関節筋のもう一方の関節での働きを落とす
- 運動面は答えられるのに、軸の名前でねじれに引っかかる
どれも「名前を知っている」だけでは届きません。セットで覚えているかが問われています。
〔重要〕「暗記でなんとかなる」は半分正しく、半分危ない
国試だけを考えれば、暗記で対応できることは多いです。ただし裏を返せば、覚えていないと対応できないことも多いということです。運動学は、やれば取れる代わりに、やらないと落とす科目だと考えてください。
解剖学・柔整理論とのつなげ方
関節がどちらに動けるのか、どの筋がどの方向に引っ張るのか。 これが分かっていると、柔道整復理論で扱う骨折の転位や固定の方向が理解しやすくなります。
運動学は運動学の中だけで終わる科目ではありません。解剖学から受け取って、柔整理論へ渡す——その真ん中にある科目だと思ってください。
先輩からのひとこと
案外、覚えるだけで解ける問題が多い科目です。だからこそ、確実に解けるようになっておきましょう。
参考文献・出典
- 全国柔道整復学校協会監修『運動学』第3版(てこの分類、運動面と運動軸、運動発達の月齢と順序、歩行周期、反射の分類の確認に使用)
- 全国柔道整復学校協会監修『解剖学』第2版、『生理学』第4版(筋の作用・支配神経、伸張反射の機序の確認に使用)
- この記事の勉強法は、一般的な学習研究の知見にもとづいています。詳細と文献は科学的に効く勉強法をご覧ください。
※本記事は柔道整復師国家試験の学習を目的とした一般的な情報提供です。運動発達の月齢や運動面の名称は、教科書や資料によって表記に幅があります。最終確認は、在籍校で使用している教科書を最優先にしてください。
監修:セジュツノワ編集部(柔道整復師・柔道整復師専科教員)/執筆:メガネ先生(柔道整復師・鍼灸師)

