「スポーツトレーナーになりたい」——柔整の養成校には、そう言って入学してくる学生が毎年います。ただ、話を聞いてみると「具体的に何をする仕事なのか」までイメージできている人は多くありません。
私は臨床の現場と並行して、スポーツの現場にも関わってきました。この記事では、柔道整復師がスポーツトレーナーを目指すときに知っておいてほしいことを、いい面も厳しい面も含めて正直にお伝えします。
※ この記事は柔道整復師国家試験とは?完全ガイドの進路クラスターの記事です。柔道整復師の就職先の選び方とあわせてどうぞ。
この記事で一番伝えたいこと:スポーツトレーナーといっても、業務内容もニーズもさまざまです。
そのなかに、柔道整復師だからこそできる形があります。まずはそこを知ってください。
そもそも:柔整師が関わる「スポーツトレーナー」とは
スポーツチームや部活動で、選手に対して次の2つの支援を提供する仕事です。
- メディカル支援:試合中のケガへの応急対応、テーピング、業務範囲内での施術とセルフケアの指導、復帰させてよいかの見立て
- フィジカル支援:ウォームアップの設計、トレーニングメニューへの助言、練習量が過多になっていないかの提案
要するに:壊れたところに対応する係と、壊れにくい体をつくる係。
この両方を、同じ人が担うのがスポーツ現場のトレーナーです。

「トレーナー」と一括りにされがちですが、チームの規模や競技、契約の形によって、求められる中身はかなり変わります。
アスレティックトレーナー(AT)などとの違い/柔整師の強み
私がいちばん大きいと思っている強みは、帯同中の試合や練習でケガが起きたときに、その場で応急手当としての整復操作を行えるという点です。これは(チームドクターなど医師を別にすれば)他のトレーナー系の資格にはない、柔道整復師免許ならではの部分です。
ただしこの「応急手当」は、脱臼・骨折の患部について例外的に認められているもので、そのあと継続して施術するには医師の同意が必要です(柔道整復師法第17条)。捻挫や打撲は同意なしで施術できますが、経過に異常があれば遅滞なく医師に委ねる——ここまでがセットだと考えてください。
スポーツ現場で柔整師に求められる力
| 求められる力 | なぜ必要か |
|---|---|
| 治療技術 | ケガをした選手に、その場で的確に対応できること。「治せるか」より先に「続けさせてよいか、医師に渡すべきか」を見極められることが土台 |
| 選手とのラポール形成 | 信頼されていなければ、本当の状態を話してもらえない |
| 監督・コーチへのプレゼン能力 | 選手の状態を伝え、起用や練習量の判断材料を渡すのもトレーナーの仕事 |
意外に思われるかもしれませんが、技術と同じくらい「伝える力」が問われます。 どれだけ正しい判断ができても、監督やコーチに伝わらなければ現場は動きません。
ただし、何をどこまで伝えるかは、本人の同意が前提です。柔道整復師には守秘義務があります(柔道整復師法第17条の2)。選手の身体の情報は、本人のものだということを忘れないでください。
学生のうちからやるべきこと
一番はっきり言えるのは、学生時代からスポーツの現場に、どんな形でもいいので関わることです。母校の部活動の手伝いからで十分です。
そのうえで、解剖学・生理学・運動学の勉強を積んでおいてください。現場に出てから効いてきます。

〔ポイント〕学生のうちは「施術する人」ではありません
現場に入る入口は、母校の顧問の先生に「勉強させてください」と連絡するところからで十分です。そして学生の仕事は、見学・準備・記録です。 氷嚢や水分の準備、練習中に誰がどんな場面でケガをしたかのメモ、テーピングを巻く先輩の手元を見る。
免許を持つ前に、施術に手を出さないこと。 これは自分を守るためでもあります。「何もできない」と感じる時間そのものが、あとで効いてきます。
学年別・やっておくとよいこと
| 時期 | やるべきこと | 理由 |
|---|---|---|
| 1年生 | テーピング(足関節内反捻挫の基本形を、左右どちらでも時間内に巻けるところまで) | 筋や骨格の走行・形状を覚えられる |
| 2年生 | ストレッチ(相手の筋緊張の左右差を言葉にできるレベルまで) | 徒手の感覚を鍛えられる |
| 3年生(国試と並行して) | 外傷鑑別(国試の外傷問題を「現場なら自分は最初に何を見るか」に翻訳して解く) | 国試にも役立つし、現場でも役立つ |
| 卒業後すぐ | まずは勤務先の手技を身につける | これができないと、トレーナー活動に出させてもらえないことが多い |
入れ替えるのではなく、積み上げてください。 3年生の時点で、テーピングもストレッチも手が動く状態が理想です。
〔重要〕線引きだけは、学生のうちから持っておく
テーピングやストレッチそのものは、柔道整復の「業」にはあたりません。 学生同士で練習して構いませんし、現場で手伝う機会があるなら、それも経験になります。ただし指導者が見ている場で、予防・コンディショニングの範囲で。揉む・押すに踏み込んで続けると、今度はあん摩マッサージ指圧師の免許という別の線に触れます。
線が引かれるのは、ケガをした人への施術(整復・固定・後療)です。ここは無資格ではできません(柔道整復師法第15条)。予防やコンディショニングのために巻くのか、受傷した患部を処置するために巻くのか——同じテーピングでも意味がまったく違う、と考えてください。
そして、この線は現場では自分で引けません。だから学生のうちは、こう決めておいてください。——痛いと言っている部位、腫れている部位には触れない。 選手がケガを訴えてきたら、自分で見立てず、必ず有資格者に渡す。迷ったら触らない、が学生の正解です。
外傷鑑別も、「自分が出場の可否を決めるため」ではなく、「危険なサインに気づいて、有資格者や医療機関につなぐため」に学ぶものです。判断を代わりに背負ってはいけません。
あると強い資格・スキル
| 資格 | ひとこと |
|---|---|
| JSPO-AT(日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー) | 私の見てきた範囲では、プロ野球・プロサッカーなどで求められることが多い |
| NSCA-CPT(認定パーソナルトレーナー) | 学位の要件がないため、専門学校の学生でも目指せる |
| NSCA-CSCS(認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト) | 受験に学位(学士・修士・博士)が必要。アスリートやチーム指導に特化した内容 |
〔重要〕NSCAの2つは、進学先によって目指せるものが変わります
柔道整復師の養成校には、専門学校と大学の両方があります。ここが効いてくるのが NSCA-CSCS で、受験には学士以上の学位が必要です(高度専門士の称号を付与された方も受験できます)。一方の NSCA-CPT には学位の要件がありません。
つまり、専門学校に進む人がまず狙えるのは NSCA-CPT です。
いま専門学校に在学中の人が、これを読んで「もう遅い」と思う必要はありません。 現場でまず求められるのは学位ではなく、その場で対応できる力です。CSCSが効いてくるのは大学や実業団など特定の環境に入るときで、そこを目指すなら卒業後に大学へ編入する、通信制で学位を取るといった道もあります。順番は後からでも組み替えられます。
なお「高度専門士」の称号が付与される課程であれば、CSCSの受験資格を満たします。ただし高度専門士は修業年限4年以上の課程に限られます。柔整の専門学校は3年制が多く、その場合は「専門士」となり該当しません。 自分の学校がどちらかは、募集要項や学校事務で確認できます。
またCSCSは大学の卒業見込み者でも受験できます。 大学在学中の人は、卒業を待たずに動けるということです。
どちらも受験にはNSCAジャパンの会員であること、および有効なCPR/AED認定が必要です。要件は変わることがあるので、最新は必ず公式でご確認ください。
現場で本当に怖いのは、柔整の業務範囲の外にある
ここは、帯同を目指すなら必ず知っておいてほしいところです。
心停止、頭部外傷、熱中症、頸椎損傷——現場で命に関わるのは、こうした事象です。見つけて、止めて、救急につなぐ。それが現場での役割になります。
なお、頸椎の脱臼・骨折は柔道整復の対象疾患ではあります。ただし現場では絶対に自分で動かさない。「業務範囲の外だから触らない」のではなく、触ること自体が危険だから触らない、という理由の違いは押さえておいてください。
〔重要〕とくに脳振盪は、2回目が致命的になることがあります
どんなに軽度に見える脳振盪でも、2回目の頭部打撲が致命的な状態や重篤な後遺症を引き起こすことがあります(セカンドインパクト症候群)。 慎重な判断と、十分な安静の確保が必要です。「大丈夫そうだから戻す」がいちばん危ない場面です。
現場の鉄則は、疑いがあれば直ちに競技から外し、その日は戻さない。「疑い」の段階で外します。確定してからでは遅い。
一次救命処置とAEDの講習は、資格の勉強より先に受けておいてください。 ちなみにNSCAの2資格は、どちらも有効なCPR/AED認定を受験の要件にしています。それだけ現場では前提だということです。
現場のリアル(正直なところ)
ここは隠さずに書きます。
- 報酬や待遇の面で、仕事としての価値がまだ十分に認められていない場面が多い——というのが私の実感です
- チームに張り付きになるため、拘束時間が長い
- 契約で動くことが多く、契約が切れれば収入が途切れる
そして、スポーツトレーナーを「仕事として」できている柔道整復師は、私が見てきた範囲では一握りです。 憧れだけで進路を決めてしまうと、あとで苦しくなります。
ただ、これは「トレーナーでは食べていけない」という話ではありません。
多くの人は、整骨院や整形外科などの勤務を収入の柱にしながら、週末や大会に帯同する形でスポーツ現場に関わっています。専業でやることだけがトレーナーではない——この形を最初から知っておくと、進路の選択肢はむしろ広がります。
学生がやりがちな誤解
誤解①:「トレーナー=かっこいい」
スポーツに関われるという意味では脚光を浴びる場面もあります。ですが実際は、影となって動く泥臭い仕事です。
誤解②:闇雲に帯同すれば経験になる
チームのニーズも、自分の実力も分からないまま帯同だけ重ねるのは遠回りです。「このチームは今、何を必要としているのか」「自分は今、何ができるのか」——この2つを確認しながら現場に入ってください。
いまも正解が出せない、ひとつの判断
最後に、いまも考え続けている出来事を書きます。美談として読まないでほしいという前提で読んでください。
全国大会の1回戦で、担当していた選手が重度の足関節捻挫を負いました。医療者として見れば、答えは明確です。止めるべき状態でした。
ですが本人は、出場させてほしいと懇願してきました。「この大会で活躍しないと、大学からのスカウトが来ない」——その子にとっては、競技人生そのものがかかった試合でした。
そのとき自分がやったことを、順番に書きます。
- エコーで患部を観察した
- 近隣の、外傷に強い整骨院と連携した
- そのうえで施術とテーピングを行った
- 監督と保護者の双方に、状態と起こりうることを説明した
ここまで行ったうえで、出場させる判断をしました。結果として彼は大活躍し、希望していた進学先から推薦が来ました。——ただ、この結果は、私の判断の正しさを何ひとつ証明していません。
断っておきますが、これは「テープを巻けば出せる」という話ではありません。 靱帯が切れていれば、テーピングでその機能は代われません。
〔背景〕あのとき、何が起こりうる状態だったのか
足関節の外側靱帯を完全に断裂していれば、教科書的な対応は固定です。RICE処置のうえで、損傷の程度に応じてテーピングや副子で固定します。期間は部分断裂で約3週、完全断裂で約6週。外したあとも、再発防止のため受傷後3〜6か月はサポーターやテーピングで保護しながら競技する、というのが教科書的な扱いです。
固定が不十分だと、靱帯の癒合が足りずに足関節へ不安定性が残り、捻挫を繰り返したり、外傷性関節症に進むことがあります。あのとき見逃していれば、外果の骨折や距骨の骨軟骨損傷を抱えたまま競技を続けさせ、転位・手術・長期離脱——推薦どころか競技継続そのものが難しくなっていたかもしれません。
そして、そもそも私たちは、法的にX線を扱えません(診療放射線技師法)。エコーで観察はできますが、それだけで距骨の骨軟骨損傷や外果の骨折を完全に否定できるわけではない——「ただの捻挫だ」と現場で言い切ること自体ができない、というのが本当のところです。
そもそも私たちがエコーで行えるのは、施術の判断の参考にするための「観察」であって、「診断」ではありません。 診断は医師の行為です。記事でずっと「観察」と書いているのは、言葉を選んでいるのではなく、そこが法的な線だからです。
〔重要〕それでも、これは「正解」ではありません
結果が良かったからといって、判断が正しかったことにはなりません。 悪化していれば、その子の競技人生を私が終わらせていた可能性があります。
いま同じことを聞かれても、私はこう答えます。あの状況では、今でもベストではなくベターだと。
出しても止めても、彼が何かを失う場面でした。最善の選択肢は最初から存在しなかった。ベターというのは、判断の中身のことではなく、決め方のことです。
〔重要〕持って帰ってほしいのは、結論ではなく手順のほうです
伝えたいのは「出場させた」という結論ではありません。そこに至るまでに何をしたかのほうです。
観察する/自分より詳しい人と連携する/監督と保護者の双方に説明する。 この手順を踏んだかどうかが、重い判断を少しでもマシにします。逆に言えば、手順を飛ばした判断は、結果が良くてもただの賭けです。
(説明する前に、本人に「監督と保護者に話すよ」と伝えて了解を取ります。そして、見たことと話したことは記録に残します。)
この手順は「出すための手続き」ではありません。 同じ手順を踏んだ結果として「やはり止める」になることのほうが、本来は多いはずです。手順は、結論を出すためのものではなく、結論を一人で背負わないためのものです。
一人で、その場の勢いで決めない。 ここだけは覚えて帰ってください。
この話を読むときに、二つだけ添えます
ひとつ。この手順には、医師の評価が入っていません。 整骨院は医療機関ではなく、エコーだけで骨折を否定することもできません。同じ場面に立ったときは、まず医療機関につなげられないかを最初に考えてください。 それが手順の最上位です。
ふたつ。天秤にかける余地がない場面があります。 頭部外傷(脳振盪)・頸椎損傷・熱中症・心停止は、本人が何と言おうと止める一択で、手順を踏んだかどうかも関係ありません。天秤が成り立つのは、悪化したときに起こることを説明でき、そのあとも観察し続けられる範囲の話だけです。
そして学生のうちは、そもそもこの判断の席に座りません。座るのは有資格者です。学生の仕事は、気づいたことを言葉にして、座っている人に渡すことです。
先輩からのひとこと
泥臭いことの連続です。その反面、選手の活躍が、そのまま自分のモチベーションになる——それがこの仕事の魅力だと思います。
そして、選手を守れるのは、知識と技術を持った人間です。ただし、一人では守り切れません。 医師、監督、保護者、チームメイト——必要な人を巻き込める人が、結局いちばん選手を守れます。 知識と技術は、その輪に入れてもらうための入場券です。だからこそ、学生のうちから積み上げておいてください。

まとめ:憧れではなく、順番で考える
- トレーナーの仕事はメディカル支援とフィジカル支援の両輪。まず全体像を持つ
- 柔整師の強みは、その場でケガに対応できること。土台は治療技術
- 学生のうちは、現場に入る(見学・準備・記録)+解剖・生理・運動学。学年別に積み上げる
- 資格は JSPO-AT / NSCA-CPT / NSCA-CSCS。専門学校生がまず狙えるのは CPT。大学生は卒業見込みで CSCS も
- 現場で本当に怖いのは業務範囲の外(心停止・頭部外傷・熱中症・頸椎損傷)。一次救命処置とAEDは先に学ぶ
- 現場は厳しい。憧れだけで決めず、収入の柱をどこに置くかまで含めて考える
- そして——止める判断ができることも、実力のうち
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監修:セジュツノワ編集部(柔道整復師・柔道整復師専科教員)/執筆:安部先生

