「起始・停止、筋の数だけあって覚えきれない…」
解剖学でいちばん心が折れやすいのが、この分野だと思います。教科書自体が、起始・停止の暗記には相当な努力と時間がかかると前置きしているほどです。
すべてを平等に丸暗記する必要はありません。 起始・停止には明確な原則があり、そこに「筋の作用」を重ねると、選択肢を絞り込む・自分の記憶を検算することができるようになります。この記事では、暗記量を減らすための3つのコツを紹介します。
※先に正直に書いておくと、原則で導けるのは「どちら側が起始か」「どの関節をまたぐか」までです。「橈骨粗面」といった付着部の名称そのものは、最終的には覚える必要があります。原則は暗記をゼロにする道具ではなく、暗記量を減らし、うろ覚えを立て直す道具だと考えてください。
なお、この記事では語呂合わせを使いません。筋の数だけ語呂を作ると、語呂そのものを覚える負担で記憶が二重になるためです。ここでは原則から導く方法を採ります。
そもそも:起始と停止は何が違う?
まず、ここを曖昧にしたまま暗記に入る人がとても多いです。定義はシンプルです。
- 起始:筋の両端のうち、動きの少ないほう
- 停止:筋の両端のうち、動きの多いほう(付着ともいう)
つまり「基本は、固定される側が起始、動く側が停止」。筋が縮んだとき、ふつうはどちらの骨が動くか——そう考えれば、たいていは判断できます。

イメージで言うと:筋が縮むとき、引っ張っているのは筋そのものです。力は両端に等しくかかり、起始と停止は互いに近づこうとします。
では、なぜ片方だけが動くのか。もう片方が固定されているからです。片端を柱に結んだゴムひもを思い浮かべてください。ゴムは両端を同じ力で引きますが、動くのは柱に結んでいないほうだけ。この柱側が起始、動く側が停止です。
💡 補足:では、固定される側が入れ替わったら、名前も入れ替わるのか——入れ替わりません。 起始・停止は解剖学で決められた固定の名称です。実際の運動では、懸垂のように停止側が固定されて起始側(体幹)が動くこともありますが、そのときも名称はそのままです。国試では解剖学上の定義で答えます。
体肢(手足)の筋なら、さらに明快です。
- 起始=体幹に近い側(近位端)
- 停止=体幹から遠い側(遠位端)
要するに:腕や脚の筋は「体に近いほうが起始、遠いほうが停止」。これだけで大部分は判断できます。
⚠️ ただし体幹の筋には、起始と停止がはっきりしないものもあります。その場合は便宜上、脊柱に近いほうを起始とし、上下方向に走る筋では骨盤に近いほうを起始とします。「体肢の原則」をそのまま体幹に当てはめない、というのが注意点です。
コツ①:作用とセットで覚える(バラバラに覚えない)
起始・停止だけを単独で覚えようとすると、ただの文字列になって忘れます。作用(その筋が何をするか)と必ずセットにしてください。
なぜなら、起始・停止・作用の3つは因果でつながっているからです。
筋が縮む → 停止側の骨が起始側へ引き寄せられる → その結果が「作用」
たとえば上腕二頭筋。起始は肩甲骨、停止は橈骨粗面です。ここから「橈骨が肩のほうへ引き寄せられる」と考えれば、肘を曲げる(屈曲)という作用が自然に出てきます。
なお上腕二頭筋には、肘の屈曲に加えて前腕の回外という作用もあります。これは「近づく方向」だけでは導けず、橈骨粗面への付き方まで見る必要があります。原則で導けるところと、覚えるしかないところの線引きを意識してください。
「覚えるしかないところ」の例:上腕二頭筋の起始は、正確には長頭=肩甲骨の関節上結節/短頭=烏口突起です。どちらも肩甲骨なので「起始=肩甲骨」で原則の当たりはつきますが、部位の名称そのものは覚える側の項目になります。停止も、橈骨粗面のほかに前腕筋膜へ移行する部分があります。
逆もできます。「肘を曲げる筋」と分かっていれば、停止は前腕の骨のどこかにあるはず、と当たりをつけられる。片方を忘れても、もう片方から導けるのが、セットで覚える最大の利点です。
コツ②:起始・停止から「関節をまたぐ数」を意識する
筋がどの関節をまたいでいるかが分かると、作用が一気に整理できます。
- 1つの関節だけをまたぐ筋:作用はその関節に限られる(ただし三角筋のように、1つの関節で複数方向の動きを起こす筋もあります)
- 2つの関節をまたぐ筋(二関節筋):両方の関節に作用しうる(=作用を1つに絞り込めない)
ポイントは「またぐ関節の数=作用の数」ではなく、「またいだ関節にしか作用しない」という制約のほうです。またいでいない関節は動かせない——ここから消去法が使えます。
⚠️ ただし、これも絶対法則ではありません。大殿筋のように、停止の一部が腸脛靭帯という腱膜に移行し、その緊張を介して、筋線維自体はまたいでいない膝関節に働く筋もあります。原則は「当たりをつける道具」と考えてください。
たとえば大腿直筋は、股関節(屈曲)と膝関節(伸展)の両方に作用する二関節筋です。
一方で、またいでいても、その関節の主要な運動筋とは限りません。 上腕二頭筋は肩関節と肘関節の両方をまたぎますが、教科書が作用として挙げるのは肘関節の屈曲と前腕の回外で、長頭は肩関節では「動かす」というより上腕骨頭を関節窩に固定する役割を担います。国試で「上腕二頭筋の作用」を問われたら、答えるのは肘の屈曲・前腕の回外です。
起始と停止の位置を思い出す → その間にある関節を数える。この手順だけで、「この筋はどの関節に関われるのか/どこは動かせないのか」を推理できます。丸暗記ではなく、構造から作用を導く発想です。
コツ③:骨のランドマークから逆引きする
起始・停止は、その多くが骨のどこか(隆起・粗面・突起など)に付いています。つまり、骨の名称を覚えるほど、筋の暗記が軽くなります。
(※顔面筋のように皮膚に付く筋〔皮筋〕や、筋膜・腱膜に付く例もあります。身近なところでは、上腕二頭筋も一部は前腕筋膜に停止します。とはいえ国試で問われる四肢・体幹の筋は、大半が骨への付着です。)
たとえば「粗面」と名の付く場所は、筋が付着する、ざらついた盛り上がりです。
- 三角筋粗面(上腕骨)→ 三角筋が停止
- 橈骨粗面 → 上腕二頭筋が停止
- 殿筋粗面(大腿骨)→ 大殿筋が停止(一部は腸脛靭帯へ)
名前に筋の名前が入っているものは、そのまま覚えられます。骨の学習と筋の学習を別々にやらないのが、時間を節約する近道です。
骨の構造から入りたい人は、骨の数と分類もあわせてどうぞ。
国試で狙われるポイント
① 起始と停止を逆にする選択肢
最も典型的な引っかけです。迷ったら「動かないほうが起始」に立ち返れば判断できます。体肢なら「近位が起始」。
② 二関節筋の作用を1つだけと思い込む
上腕二頭筋・大腿直筋・ハムストリングス(大腿二頭筋短頭を除く)などは複数の関節に作用します。「肘を曲げるだけ」と覚えていると誤答します。
🧭 つながりで覚える(科目横断)
起始・停止は、解剖学の中だけで完結しない分野です。
- 骨(解剖)→ 筋の付着部:骨のランドマークを覚えるほど、筋の暗記が楽になる
- 筋 → 運動学:起始・停止が分かると、関節の動き(作用)が導ける
- 筋 → 神経(解剖):どの筋を、どの神経が支配しているかにつながる
- 筋 → 柔道整復理論・臨床:どの筋が損傷すると、どの動きが障害されるかにつながる
「骨 → 筋 → 動き」の順で積み上げると、3科目が一度に整理できます。
まとめ
- 起始=動きの少ないほう/停止=動きの多いほう。体肢では起始=近位、停止=遠位
- ただし体幹の筋は例外あり。脊柱・骨盤に近いほうを便宜上「起始」とする
- コツ①:作用とセットで覚える(片方を忘れても導ける)
- コツ②:またぐ関節の数を意識する(またいだ関節にしか作用しない=消去法が使える)
- コツ③:骨のランドマークから逆引きする(粗面・突起は筋の付着部)
- 引っかけは「起始と停止の入れ替え」と「二関節筋の作用の見落とし」
起始・停止は、量に圧倒されると手が止まります。まずは原則を1つ握って、思い出せなくても導ける状態を目指しましょう。定着のさせ方は科学的に効く勉強法の想起練習が有効です。
参考文献・出典
- 柔道整復師養成課程で用いる解剖学の教科書(起始・停止の定義、体幹筋の例外規定、三角筋粗面・橈骨粗面・殿筋粗面と各筋の付着を照合)
※本記事は柔道整復師国家試験の学習を目的とした一般的な情報提供です。各筋の起始・停止の最終確認は、在籍校で使用する教科書を最優先にしてください。
監修:セジュツノワ編集部(柔道整復師・柔道整復師専科教員)

